の連載エッセイ「ソローヒルの庭から」を大幅に加筆改稿して1年間52回
週刊連載します。自然を愛する人々、田舎に住みたい方々に読んでいただければ幸いです。
文・鶴田静 / 写真・エドワード・レビンソン 禁転載
「ソローヒルの庭 12ヶ月52週」
第7週 2013/4/15から
穀雨 ゛季(とき)のご馳走゛
夏日になったと思ったら、霜注意報も出た。冷たい風が吹きまくる日もある。北の方では雪が降りまくる。最近の天候は、世の中と同じように荒れ狂っている。自然さえ、世相を反映するのだろうか。
そんな中で暖地のわが家では、ツツジやアザレア、ヤマブキが色鮮やかに咲いている。二階から下を見ると、滝のように流れている白いコデマリの花の先に、白と紅色のぼかしのヒラドツツジの花が揺れている。ナニワノイバラが二階まで伸び、大きな白い花が満開になった。二階の戸口から顔を出して花を見ている私を夫が写真撮影をした。もちろんフォーカスはバラの花だ。
2010/4 2013/4屋根まで届くので上はカット
花の色も美しいが、なんと言ってもすばらしいのは新緑。花の色数が増えるにつれて、緑の量が一気に増した。落葉樹のムクゲ、コナラ、カエデ、ガマズミ、カキ、イチョウの裸木が雨の後で芽吹き、一斉に若葉を繁らせたのだ。やわらかな若草色が雨に洗われ、葉はエメラルドに変わっている。陽が出、まばらな葉の隙間から漏れる光と影が、若い緑の最も美しい時を逃さず点描の風景画を描く。長いこと住んだ東京・玉川上水の、雑木林の光景が想起される。
恵みの「穀雨」で水分をたっぷり吸い込んだ土に、種蒔きはチャンスだ。夏野菜の種は、すでに蒔いた種類でも、時をずらし、場所を変えて蒔くのが私たちのやり方なので、始終種蒔きをする。冬を越してどんどん伸びていくエンドウに、支柱を立てる。すでに紫と薄紅色の二色の蝶の形をした花が盛っている。この花がサヤになるのだ。
支柱に使うのは、冬に剪定した木の枯れた長い枝(ウイリアム・モリスの教え)。十分乾燥していない枝は、土に挿しておくだけで芽が出るので驚いた。似ている木の枝を使うと、間違って支柱の方に水やりをしたり施肥をしたり。こんなずぼらでも、なんとか菜園らしい体裁になるのはありがたい。湿った土の上にラディッシュが赤く光り、カブが真っ白いあでやかな肌を見せ、ひとの注視を招いている。
この頃の来客の接待には、ありったけの野草や山菜を食卓に載せる。ノビル胡麻味噌添え、タケノコと蒟蒻の刺身、タケノコの蕗味噌詰め、蕗の葉に包んだ蕗とタケコと椎茸の混ぜ御飯、ミツバ・お麩・新わかめの吸い物、甘夏のゼリー。粗食ではあるが、タケノコ尽くしと言える゛季(とき)のご馳走゛にしておこう。
我が家の名物チクリン・ナゲット
お帰りの際、蜜柑畑で甘夏をたくさん収穫していただいた。数日後、その甘夏の手作りジャムが贈り物として届いた。ガラス瓶の中で、宝石のきらめきを放っているものが、枝の上でごっつい皮を着ていた実とは思えない。が、これが、人間の持つ技をもって自然を食べものとして活用し、感謝を表すことなのである。
(来週に続く)
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