の連載エッセイ「ソローヒルの庭から」を大幅に加筆改稿して1年間52回
週刊連載します。自然を愛する人々、田舎に住みたい方々に読んでいただければ幸いです。
文・鶴田静 / 写真・エドワード・レビンソン 禁転載
「ソローヒルの庭 12ヶ月52週」
第11週 2013/5/13から
夢想のバラ園 ゛ビヂテリアン宣言゛
ウイリアム・モリス
「花の女王」と西洋で称されるバラの季節の到来。「薔薇は、精巧な形と微妙な質感と優美な色調を持つ花の中の花、女王である」と讃えているのは、イギリスの作家・美術工芸家のウイリアム・モリス。バラの様々な色と形と香気には、まったく感興をそそられるが、さらにそれぞれに付けられた名前に惹きつけられる。詩人、作家、音楽家、俳優、貴人など現存した人物の名である。私の庭でも、ピエール・ド・ロンサール、プリンセス・ド・モナコ、モリスなど何人かがバラに生まれ変わっている。しかしその数はぱらぱらととても少ない。
バラ愛好家の友人達から、鑑賞へのお誘いが次々に舞い込むので心が躍る。近所の庭には雰囲気のある小さなコテージが建てられ、バラの生け垣で囲われている。新興都市に住む友人は、建坪率で残った敷地全体を使い、数十鉢のミニバラを育てている。東京のマンションの屋上ベランダで育つ六十鉢ものツルバラ、そのすべてが同時に咲き匂っているのには圧倒される。作り手の花への愛情の深さと、濃やかな手入れの良さとが明白である。毎年誘っていただいているバラの宴では、シャンパンの中に花びらを浮かす。その泡とともに一瞬の夢想の世界にたゆたう。
カクテル
このように見事なバラを観賞した後で見ると、私の庭のバラたちはその名にふさわしくない咲き方で、それはまさしく私の怠慢ゆえ。「モリス」はマメコガネムシの巣になっているではないか! そんなわけで私にとっての憧れのバラ園は、今のところ皆さんの庭や、本や夢想の中にあるものなのだ。
72候では「竹の子が生える」だが、竹林のないわが菜園では、相変わらず野菜たちがお呼びである。白と紫のタマネギの葉が枯れ、土から顔を出して掘り出しを催促。つやつやの球が二つの籠に溢れた。窮屈そうなニンジンを間引くのだが、レース編みのような繊細な葉のなんという美しさ! 冬のシュンギクを抜かずにそのままにしておいたら一メートルにも伸びて、黄色い花が真っ盛り。葉は、少し強(こわ)くなったがまだ食べられる。花を飾りに添えた料理に、「この花、食べられますか?」と客人。「もちろん。少し苦いけれど、花びらを召し上がれ」。食後にはバラの実(ローズヒップ)のお茶をどうぞ。ロゼット咲きの「モリス」が薫らせる芳香と、その花びらと共に。
庭を一周すると、すでにタチアオイがぐんぐん伸びている。今年の花の時季の意外な速さが思われる。病葉のついている常緑樹―クチナシやレモンやキョウチクトウが気になる。もっと心を入れて世話をしなければ。。。。。が、ピンクの昼咲き月見草があちこちで大きな群生を作っている光景に,心が安らかになった。
話は変わるが、「私は春から生物のからだを食ふのをやめました」と賢治が手紙で゛ビヂテリアン宣言゛をしたのが1918年5月19日つまり今日だった。95年後の今日、ベジタリアンがずいぶんと増えたのは、喜ばしい。(来週に続く)
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(写真:エドワード・レビンソン)
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