「菊芋の効用 宮沢賢治の話」 鶴田 静著
「このキクイモには、イヌリンていう成分があって、糖尿病に利くんですって。」
農家のぉばさんにこう進められて根茎の入つた袋を1ついただいた。からだは健康この上なかつたから、からだのために食ベ るというつもりではなかつたその花が好きだつたのだ。
それはキク科のキクイモで菊芋である。黄色い花の形はコスモスやヒマワリと同じだ。農道を彩る黄色のコスモス型の花に魅せられて、五、六個を埋めておいたら、何と年々増え、今ではわが丘の丘陵を縁どるほどになつた。がっちりとした逞しい花を寄せ集めて大壺に投げ入れると、そこは、太陽が降りてきたように朋る<なる。
キクイモは、朋治時代に家畜の飼料として原産国の北米から移入された。生姜の形のような根は根茎以外は柔らかく、煮たりみそ漬けにしたりして食ベる。
私は田舎に住んで初めて、このキクイモと出合ったのだが、農村では昔から、野菜の一種として食ベられていたのだ。
私は食ベ 物よりも花に閲心があるのだが、多年草のこの植物は 恐ろしい<らいに増え続ける。二、三メートルの高さにもなり、太い茎や葉には、ざらざらとした突起がある。ついに悲鳴を上げて減らそうと思い、花の終ゎつた十月に根を掘り出した。ふと思い出して煮て食ベてみた。確かにお芋の昧はするけれど美昧しいとは言えない。次にみそ汁に入れてみた。周りの皮はジャガイモのようだが、中身は大根のようだ。賢治の母上のように、もっと料理を勉強しなければ。
アメリカの作家・ナチュラリストのダイアン・アッカーマンも、キクイモを植え替えようとして根をかじってみたという。昧はぱりぱりした石鹸のようだったというから、おいしくはなかったのだ。サラダにする人もいるらしいが、彼女はやはり、食ベることには興昧ないという。 彼女は花については何も述ベていない。
そういえば、キクイモのみそづけが好物だったという人がいた。宮沢賢治だ。
賢治は荒れた畑でキクイモを作り、三〇キロものキクイモを背負つて歩いたという。彼は詩にこう書いている。
「そもそも拙者ほんものの清教徒ならば」
(前八行略)
この荒れ畑の切り返しから
今日突然に湧き出した
三十キロでも利かないような
うすい黄色のこの菊芋
あしたもきっとこれだけとれ、
更に三四の日を保する
このエルサレムアーティチョーク
イヌリンを含み果糖を含み
小亜細亜では生でたべ
ラテン種属は煮て食べる (以下略)
詩を書き、童話を書き、農芸化学の教師であり農業に励んでいた賢治は、新しい物好きのモダンボーイだった。朋治初期に渡来したこの植物について、その成分さえも一九二〇年代にはすでに知っていたのだ。エルサレムアーテイチヨークは、キクイモの英語名である。ここにも賢治の舶来通があらわれている。
キクイモに関しては、私は団子より花だなぁ。キクイモはコスモスの花と同じ季節に、私の庭で競い合うが、どちらも繁殖カが強く、決してその場を譲らない。
私はどちらかといえば、増えて欲しいのはコスモスの花だ。実際にはコスモスも強い槙物なのだが、ゆらゆらと秋風に揺れる姿は繊細で弱々しく見える。つい情を誘われるのだ。 キクイモの花は、なんときっぱりとその力強さを顕していることだろう。
2021.10.10 旧編を再稿
ツィッター 2021.10.8
庭つくりで最初に植えたのが菊芋(キクイモ)の球根。花がとてもきれい。菊芋は宮沢賢治も畑で作り、母親の料理する精進料理のキクイモの味噌漬けを好んだ。
(拙著『宮沢賢治の菜食思想』料理の写真) キクイモはイヌりンという水溶性食物繊維が含まれているという。そのせいかイノシシが球根をよく食べる。