★以前執筆した朝日ビジュアルシリーズ「野菜づくり花づくり」
の連載エッセイ「ソローヒルの庭から」を大幅に加筆改稿して1年間52回
週刊連載します。自然を愛する人々、田舎に住みたい方々に読んでいただければ幸いです。

文・鶴田静 / 写真・エドワード・レビンソン 禁転載


     「ソローヒルの庭 12ヶ月52週」
     第12週  2013/5/20から
芳香の庭 小満の節気

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 緑葉(りょくよう)の色が室内にまで染み込んでくる。そんな日に、自生のウツギとノイバラの真っ白い花が満開なのは喜悦である。ウツギもノイバラも、農道や庭のあちこちで大きな茂みとなり、匂い立っている。どちらの枝も滝の流れのように枝垂れ、花が咲き溢(こぼ)れている。
 空木と書くウツギの別名は卯の花、ノイバラは茨である。こちらの名の方が知られているかもしれない。卯の花も茨も、花の白さが新緑の中で際だつ。どちらも五弁の小さい花だ。またどちらも良い香りを放つ。似て非なる香りで、この二種類の香りを同時に味わえるとは、なんという幸運だろう。この二種の花が咲くと、春は初夏に移り変わったことがひしひしと感じられるのだ。
 日本に自生するウツギは、昔からよく知られ、万葉集にも詠われている多くの詩歌のモチーフである。蕪村はこの二つの花を詠っている。
「卯の花のこぼるる蕗の広葉かな」
「路たえて香にせまり咲く茨かな」

 ウツギの花は夏雪草とも言われ、昔からその白さが雪にたとえられてきたが、白さを誇る花は他にもある。
 石鹸の泡のようなガマズミ。カラーは独特の形をし、湿った地面の隅で孤高を持して咲いている。テッポウユリは、昨秋、養苗場でいただいた何箱もの残り物の苗が、見事に開花したものだ。あんなに弱っていた小さな球根だったのに、生きようとする意志こんなにも強かったことに感動した。陽気が良くなり作物が十分に生長する時季の、「小満」の節気だからだろうか。そして週はじめにはしとしと優しい雨が降った。
 レモンの花やミカンの花が白く咲き、ニセアカシアとガマズミの花も咲き、卯の花やオガタマノキとともに敷地内は良い香が充満している。今は「芳香の庭」だ。

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 ところで、今週は「蚕起食桑」の候。わが家に自生する桑の木には、たくさんの実が生っている。まだ紅いので、それほど甘くない。ギリシャ神話にあるように、黒く色づくのを楽しみに待つ。私は蚕ではないので葉は食べない。実を食べる。たくさん採れればジャムにする。ありがとう。ごちそうさま。(来週に続く)

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(写真:エドワード・レビンソン)
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