★以前執筆した朝日ビジュアルシリーズ「野菜づくり花づくり」
の連載エッセイ「ソローヒルの庭から」を大幅に加筆改稿して1年間52回
週刊連載します。自然を愛する人々、田舎に住みたい方々に読んでいただければ幸いです。
文・鶴田静 / 写真・エドワード・レビンソン 禁転載
「ソローヒルの庭 12ヶ月52週」
第5週 2013/4/1から
桜花—穀物の精霊
3月の異常な暖かさで、庭の4本のソメイヨシノが2週間も速く花盛りとなった。前年には、私は日本の伝統色で「灰桜」と呼ばれる色の和服を着て、桜の木の下で記念写真を撮ったっけ。
うっすらと紅がかった白い花は、日光の反射で透き通っている。まさに春の宝石だ。満月が少し欠けただけの月の光は、夜の花を雪に見せる。しかし壊れやすい宝石や溶けていく雪のように、桜花の命は短い。数日間、その輝きを保っているがやがて、零れ桜となりそれから、深紅の桜蕊をあたり一面に降り敷く。花びらは微かな風にも吹雪いて、その潔さを見せつける。「あなたもこんな生き方をしてみなさい」と。
石畳や小道の花溜まりを見て、もう桜も終わり、と観念すると、一気に緊張感から放たれる。ほっとする身には、食べ物がおいしく入っていく。桜の花は鑑賞だけでなく、なんと多くの食べ物と関連づけられているのだろう。私的代表は桜餅。皮の桜色は食紅で着ける。餅をくるむ塩味の桜の葉っぱを食べると、甘味とよく調和する。花を塩漬けにして湯で溶いたのは桜湯。そして、桜海老や桜鯛、桜飯や桜粥がある。
そこで、私流の桜ご飯を花見のお客に供することにしよう。白米に梅酢を加えて炊いてご飯を桜色にし、盛りつけに、桜花を溢れんばかりに飾るのだ。ただこれだけだが、それはまさに、ここ一瞬の自然との合作である。サクラの語源は、一説では、サは穀物の精霊の意、クラは神が座す場所だそうだ。
花のおむすびー桜、すみれ、菜の花
花時には菫色に霞みがちだった空だが、今週の「清明」の頃にはすっきりと晴れ渡って欲しい。4/2日と3日には春の嵐が吹きすさんだから、翌日にはきっとすっきりと晴れ渡るに違いない。自然の秩序正しい一面である。花冷えもまた。
「人体冷えて東北白い花盛り」金子兜太。
東北や北海道、寒地の皆さんのご健康を祈ろう。
淡い桜色に慣れた眼を黄色で射るのは、咲き続けているレンギョウやモッコウバラ、足下の、株に数本もの花茎を
伸ばしたタンポポである。どれも春風を受けてしなう姿は、力強い。
上下 モッコウバラ
日本列島から桜の熱狂が去ると、足を地にどんと付け、日々の糧を得る態勢に入らなければならない。桜は、何事につけても終わりと始まりの象徴である。植物にとっても゛新年度゛の合図となるから、私も新しい気持ちで、夏野菜や秋咲きの花の栽培準備に取りかかろう。
ウグイスやヒバリ、百鳥が声高く囀って応援してくれる。 (次週に続く)
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