ソローヒルから



寺田太郎作


今年の冬の寒さは、これが普通なのだろうけれど、いつもよりずっと寒く、雨も多く、なかなか外に出る気になれな かった。が、ようやく温かい日を見て庭を巡る。
気の早い吉野つつじとアザレアが満開。少ししかない華やかな色がよく目立つ。

けれども落葉樹はまだまだ枯れ枝ばかりで、本当の緑の風景になるにはほど遠い。

もう少しの辛抱で、待っていよう。

小動物も出始めたので、トビーは庭中をかけずり回っている。
エドも冬の薪割りから少し解放されて、新しい大工仕事を始めた。
もちろん、写真撮影も新作を制作中。






2010年冬


すみません、一季分の更新が出来ませんでした。それで突然冬 になってしまいました。反省してお詫びします。

夏以降、少し疲れが出ました。心機一転するために、年末二人 でベトナムへ旅しました。ホーチミン市に滞在し、現地のベトナム人写真家の知人の案内で、メコンデルタ地方の農村や河下りを体験しました。

私個人としては、ベトナム戦争時代の様子が知りたかった。

79年に最初の本を出してから、いろいろな人々 と知り合いましたが、その中にベトナム戦争忌避兵士を助ける人々がいました。べ兵連関連でした。それ以前から、ベトナム戦争に関してはよく新聞で読んでい たのでした。以前からベトナムには行きたいと願っていました。遅きに失した感はありますが、今頃になって急に行きたくなりました。行かなくちゃ、と。

観光化した様々な博物館を廻りましたが、展示物からでも、当 時の凄惨さは伝わりました。1945年には日本軍も侵攻したのでした。そ れ以前はインドシナ戦争。ホーチミンおじさんの記念館では、いかに彼が人民に慕われたかが伝わります。

私はフランス文学を囓ったので、マルグリット・デュラスの本 をよく読んだのですが、彼女はこの地に長年住み、この地について書いています。フランス統治時代の建物が残る市の中心部に宿を取りましたが、市民の生活は ベトナム人のもの。歩道は彼らの居間となり、椅子や食卓を持ち出して食事をとり、物を売り、昼寝をし、その前をバイクが怒濤のように流れていきます。物乞 いも少なくない一方、ドイモイで建ったらしい西洋のブランド店も多く、高層ビルの建設が盛んで、人々はケータイ を離しません。日本と同様、バイクでもタクシーでも、船頭さんも主婦も若者も、ケー タイが命らしいです。

止宿したコロニアルのホテルは、戦時に新聞記者が集まり、こ こからニュースが世界各地に発信されたとのこと。ロビン・ウィリアムスの「グッドモーニング・ベトナム」の映画が思い出されました。このホテルは、映画 「インドシナ」のロケ地となりました。

真夏の暑さで町を歩くのは大変でしたが、レンガの建物を覆う ように高い木立が立ち並び、緑地も多く、緑に溢れているのが救いでした。



メコン川周辺の農村は農産物が生き生きと茂り、家は立派なレ ンガ建て、動物、特に犬が多く、鳥たち、牛たち、そして人間の大家族が仲良く暮らす様子が分かりました。幸せで豊かな印象でした。

そして町でも農村でも、人々は優しい笑顔で接してくれまし た。女性の甲高い甘い声。はにかみながらも積極的な応対。植物園では若者グループが突然、果物を二つもってきてくれました。

ついでに言えば、食べものは美味しく、珍しい果物がたくさん ありました。

今回はホーチミン市だけだったので、次にはハノイも行きたい と思います。

 

元旦に間に合うように帰国しましたが、真夏のホーチミンから戻ると、嵐のような風、雪、満月、そして初日の出、一晩で1年があっとい う間に巡ったような感じでした。




2009年 夏から秋へ

セミ時雨が雨よりも長く続いています。何種類ものセミたちが朝の4時頃から 一斉に合唱を始め、一日中、演奏しっぱなし。鳥たちの声もかすみがち。でも夕方になると、ねぐらに帰る鳥のさえずりが優勢になり、
夜が始まると虫たちが子守歌を奏でてく れる。
これぞネイチャー・ミュージック。


カブトムシが木槿の木に住んで、何匹かで戦ったり、愛し合ったり しています。トビーが木の下で上をじっ見つめ、負けたカブトムシが落ちてくるのを待ち、捕まえて口に入れる。カブトムシは角や手足で必至に抵抗。私は「ト ビー、やめなさい!」と叫び続ける。しかし、これも彼ら生きものたちの生き方の一つなので、見守って
いる。たいてい、トビーが勝つ。時々私 がカブトムシを 救い出す。4キロ程度しかないこんな小さな生き物にも、本能で備わった狩猟の野心がなみなみと脈打っている。室内犬にしておくのはもったいない。そこでい つでも外に出る自由を
与えている。



朝夕涼しく、秋の気配が濃厚になった。 日暮れの時間も速まり、夏に名残惜しい。
エドは近くの友人と毎日サーフィンを楽しんでいる。寒がりの彼は、夏くらいしか海に入らないのだ。私は浜辺でせっせと貝殻を拾い、モルタルを塗るときの装 飾に使っている。今月は庭にある水道栓の周りに飾った。新しい17段の階段には、大きな階をところどころに埋め込んだ。
少し前は、パティオのテープルの装飾をタイル張りにし、そこに貝殻を使った。
この貝殻は大豆くらいの大きさの小さい物ばかり。エドがドイツで写真展をした2月に、お土産にいただいた。一生ここにあって、親切な友人の思い出の品にな る。
ところが最近、近くの浜辺に行っても、貝殻が見つからないことがある。潮の満ち干の加減か、浜辺の清掃のせいか、貝殻のない海岸は少し気味悪い。



2009年 夏

トビー入院する!!
3月からくしゃみをしていたトビー。獣医さんの初期の診断では今風の花粉ア レルギーか。服薬。4月、くしゃみがひどくなり、右の鼻から鼻水が出る。くしゃみは
数回たて続けに出て、ひどいときは頭を 床に打ち付けるほど。再び医者へ。薬を変えたら、少し良くなったが、それでも治まらない。検査のために別の病院へ紹介される。そこで血液検査とレントゲン を8枚。口と鼻を除いては全て異常なし。
さてこのくしゃみと鼻水の原因は、人間 でいう顎洞炎。歯が膿漏になり、そこから炎症が起こっているのだ。歯を抜き、処置をした。
この病院の院長先生は名医の誉れ高い。 血液検査では20項目くらいを全て丁寧に説明して下さる。説明だけで1時間半かけて下さった。私もここで検査をしていただきたいと思った。先生の対応だけ で、名医だと分かった。




それはトビーも同じで、預けて帰ると き、先生に抱かれてすっかり安心しているのだ。いつもなら、医者はいやだいやだ、と私に抱かれたくて大騒ぎをするのに。
犬が信頼する先生だから、きっと手術は 成功し、トビーは良くなると確信した。
術後2日目。先生に電話で容体を伺う と。「もうご飯をよく食べていますよ」
トビーったら、食いしん坊で、いつも食 べ物のおねだりが絶えないのだけれど、
こんな時は、食いしん坊で良かった、と 胸をなで下ろした。
エドも私も、トビーのいない数日間、毎 日、トビーはどこかしら、と探してしまうのだった。ベッドから飛び降りる気配がする。杉板の床を歩き回るあの音、くぅーん、くぅーんと食事を催促する鼻声 が耳から離れない。庭で瞑想する後ろ姿、階段を駆け上がり駆け下りるかわいらしいしぐさ。まったく、何てかわいいのだろう。
そして5日後、トビーは元気で私の腕に 戻った。ただし、あごのひげを全部剃られて
まるで狐のような顔をして。
診療室で最後の説明を受けていると、外 にいたトビーがドアをノックして(がりがりとひっかいて)、先生の所に入ってきた。そしてお礼を言った。
今、トビーは再び元気で、よく食べ、庭 を巡り、自分の好きな場所でゆったりとしています。

2009年春から初夏
1週間、庭とご無沙汰していたら、草が30センチも伸びている。枯れ枝に緑 が芽吹いて、あたりはすっかり春の様相。あわててしまった。
花木に花が次々に咲き始めている。庭で はモッコウバラが盛り、母のおおむらつつじが咲き出し、ハナミズキの白い花、コデマリが白い花を群れさせ、おおでまりがどんどん白さを増し、エニシダが遠慮がちに白と黄の蝶の花を咲かせている。つつじの赤紫も美し い。アヤメは紫を濃くしている。
野菜花壇で は、サヤエンドウの花がきれいに満開で、鞘も付け始めた。タマネギは掘り出し頃。
エドが夏野菜の植え付け。ここは畝が一 直線の畑らしい畑。敷地に隣接していた空き地を借りたのだ。下の農家の方が、ユンボで土を掘り起こしてくれた。ジャガイモはすでに芽を伸ばして苗になって いる。
03年の家を建てるときに造った庭の17段の一番長い階段。石を埋めておいたのだが、どうしても草が生え、歩くのに邪魔になる。5年越しの構想でついに3 月、
モルタルを敷き詰め、川と海岸の模様に作った。エドはここを「しか渓谷」と名付け、鶴田は「流水階段」
と呼ぶが、どちらがよいでしょう。
これからが勝負時の庭仕事。果たして虫や草が勝つか、私たちが負けるか。なんて勝ち負けではなく、共存か自然淘汰だ。
今年の気候はとても変で、暑かったり、雨が多かったり、植物たちも惑わされている。タチアオイは一月早く咲き出しそう。



© Edward Levinson

1月から3月中旬までは家の内外の仕事 で忙しい。丸裸の庭では剪定と寒肥、植木の植え替えや植え付け、階段や小道を整え、美観を造るのに努力をする。
室内では、税金の申告や、収納の整理整 頓。そして何よりも、本の校正に精魂を傾け、そしてついに3月に発売されることになりました。本のページ、ニュースの
ページをご覧ください。
寂しかった周囲の田畑や野原には、人の姿が見られるようになった。田んぼや畑の土興し。甘夏ミカン狩り。
山菜摘み。花摘み。山の手入れ。枯れ草刈り。
つかの間の冬の休息が終わり、いよいよ仕事が忙しくなる。

以下はソローヒルガーデンと同文です
辺り一面茶色の暖かさに満ちている。朝日、日光、夕日に照らされて、枯れた草木から体温が発せられている。北風・南西の風の中で、長いススキの穂と草は大 きく自在に揺れ、草としての自由を愉しんでいる。キョウチクトウや樅の木、枇杷や月桂樹、金・銀のモクセイ、椿やサザンカなど常緑樹は超然としているけれ ど、イチョウ、コナラ、木槿やヤマボウシ、楓やアジサイなどの落葉樹は、ちょっと頼りなさそう。春を待ちわびている。
私たちは剪定と寒肥に毎日大忙し。6段の階段を上がり下りし、肥料や土を運ぶ。植え付けたり、掘り出したり、また植え付けたり。土の掘り返しには力がい る。毎日体のあちこちが痛む。
そんな中で唯一の慰めは、ニホンスイセンの群生や株から良い香りが立ち上がり、私を包んでくれること。花束にして室内に飾ると、どの部屋にも甘い香りが 漂っている。サザンカははらはらと散ってそろそろ終わりだ。けれど次の椿が咲き始めている。紅白のわび助、乙女など、サザンカに優るとも劣らない華やか さ。沈丁花も咲いて香っている。


© Edward Levinson

足下にはホトケノザやふきのとう、のび るが生えている。
菜園では冬の青い菜っ葉が元気で、菜の花の黄色も目を愉しませてくれる。
けれども2月には20度前後の日が何日かあった。この暑さではニホンスイセンも早く萎れてしまいそう。まだ蕾もあるし、もう少し長持ちしてもらいたいのだ が。
ハクモクレン、トサミズキ、ツツジ、雪柳、レンギョウ、バラなどの蕾が日に日に膨らんでいる。チューリップやヒヤシンスの球根も芽を伸ばしている。クリス マス・ローズはほとんどが蕾を丸くし、花開いた株もある。ネコヤナギがほわほわした花穂を枝一列に並べている。菫も1輪ずつ花をつけている。一季節早く来 てしまったので、植物たちも戸惑っている。
うれしいのが毎日訪れているめじろや四十雀やひよどりたち。下の梅林の白梅の枝に、小さな鶯がいて、ホーホーと鳴ているのだけれどケキョとまでは言えず、 私が口笛を吹いて教えて上げたのだが、まだ真似できない。
トビーは、狸を追いかけて森の中へ。うなり、吠え、いっぱしのハンターとしての仕事を得意気に果たしている。でもトビーは狸にそっくりなのだがなあ。


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2008年12月
 我が息子トビーが始めて飛行機に乗ります。エドがアメリカに行っている 間、私たちは年末年始を博多で過ごすのですが、飛行機で行きます。
(済みません、C02を出すものを使っ て。この分は、石油と電気を使わずにー太陽光発電機の電気を使うー埋め合わせましょう)。トビーは車に乗るのが大好きなので、というより私の膝の上だから か、「きっと喜ぶわ」と前の飼い主が言います。「これで本物のトラベラーね」。今からキャンバス地のキャリアーの中に入れて訓練しているのだけれど、自然 児、野生児のトビーはこんな小さな檻の中は大嫌い。
2時間を一人で
持ちこたえなければな らないのはかわい そう。それでもトビーは
ママとずっと一緒にいたいので、我慢するでしょう。私の膝の上では何時間でもぐっすり眠るのだから、客席に乗せて行きたいのだけれ ど。やはり動物は動物扱いされるのだ。私に
とっ ては赤ん坊なのだけれど。


© Edward Levinson


最近は暖かい日と雨降りが交互にきて、 エコ暮らしが楽になっている。
すなわち、外が10度以下でも室内は 20度にはなるので暖房が要らない。
雨が降るので水が溜まる。この両方で植 物の育ちがいい。赤や黄や茶色の木の下で、緑の野菜がみずみずしい。薪も減らず溜まる一方。でもこれって温暖化だから、別の地域では環境破壊になっている のだ。喜んでばかりはいられない。エゴでエコ、エコでエゴ。困ったものだ。

11月
落葉樹の枝先が空の中で震えている。くさぐさも茶色に変わった。いよいよ冬 だなあ、と覚悟をする。すでに薪ス トーブを使い出している。薪は1年分を確保してある。そしてまた、どこかの建築現場から切り出された木々が運び込まれた。ありがたいことだ。
いろいろな課題がある中で、最近、ウッドデッキを緑化しようと考えている。まず、いただ いたシダ類を大きな長方形の鉢4つに分けて入れ、並べたら、よく映 える。デッキにはだんだんに鉢が増えるだろう。

井戸水と雨水は涸れている。もう一つ井戸を掘らなければならないかもしれない。

毎日カラスがやってきて柿を食べたので、あの鈴なりだった柿は一つしか残っていず。次の果物はキンカンとミカンだ。今年は鳥たちよりも早くキンカンを収穫 しよう。


10月
ようやく秋らしくなり、9月から10月にかけて秋の長雨になった。30畳分 のウッドデッキのペンキ塗り替えが、 どうにか間に合った。勢いよく雨を跳ね返しているので頼もしい。けれどそれは、デッキに水溜まりが出来ると言うこと。雨後の清掃が大変だ。しかし、ここに 座ってみる雄大な景色のご褒美がもらえるのだ。
秋の庭仕事がたくさん待っている。夏の名残を片付け、土を耕し、苗や種や球根と入れ替える。